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予防原則と住民合意を無視した事業計画

 2004年5月9日に行われたシンポジウムには350名が参加した。初めに「廃プラ処理による公害から健康と環境を守る会」が経過を説明した。

 

 「再三の要望にも関わらず、市は『第2回説明会』を持とうとしません。民間パレット工場は、あくまでも民間であるので、行政・民間2つの処理施設は切り離して欲しいと繰り返すばかりです。着々とパレット工場建設が進む中で、弁護士とも相談し、建設許可から3ヶ月目の5月26日をめどに行政訴訟の準備に入ります。賛同する方々からの寄付、あるいは借入金を募り、200~300万円の基金を準備したいと思います。この運動は、全国に広がるであろうプラスチック処理施設で、新しく発生する恐れのある公害を予防する、単に地域にとどまるものではない運動として、広く皆様のご協力をお願いいたします。」

 

 その後、4名の専門家による講演が行われた。今回は植田和弘先生(京都大学教授、環境経済学・公共経済学)の講演内容の要約を紹介する。


■植田和弘先生(京都大学教授、環境経済学・公共経済学)


 私は廃棄物の問題を専門に研究してきました。当該施設は「循環型社会をつくる」というのが表看板ですが、大量廃棄には限界があり、基本は発生量の減少。それでも出てしまうものに限って再生・再利用し、残ったものは処分するのが原則です。

 

 容器包装リサイクル法が2000年に本格実施され、4市(寝屋川市、枚方市、交野市、四条畷市)組合はそれを推進する施設。リサイクルは悪い事ではないが、新しい事には新しい問題が起き、リスクが発生します。

 

 寝屋川に建設される北河内4市リサイクル施設組合(4市の一般家庭から集めた使用済みの容器包装材を圧縮梱包する施設)と圧縮梱包された廃プラからパレット(運搬用荷台)を再生品として製造する民間会社であるイコール社の事業は、日本では初めてといわれているように、新しい製品製造事業です。こういう施設は大阪府生活環境保全条例などではアセスメント(事業が与える影響を事前に評価すること)の対象ではありませんでした。住民が杉並病のことを知って、事前に住民の健康や環境などの安全性を調べ公表することを求めています。しかし、4市組合が作成した「生活環境影響評価書」には、杉並病で問題になった施設からの有害化学物質についての調査は報告されていません。大気汚染としては二酸化窒素、ばいじんのみで、悪臭・騒音も大丈夫とされています。

 

 寝屋川の施設が検討された2004(平成16)年以前に、廃プラの材料リサイクル施設を対象とした生活環境への影響調査報告は義務づけられていません(筆者注:環境省が2006(平成18)年9月4日に公布した「廃棄物処理施設生活環境影響調査指針」に焼却施設などの指針値はあるが、廃プラの材料リサイクル施設は調査対象になっていない)。

 

 しかし被害が出てからでは遅い。1992年ブラジルで行われた国連の環境サミットでは、予防原則(筆者注:環境や人体に被害が生じる恐れがある場合、十分な科学的証明がなされていなくても、すみやかに対処すべきとする原則)が確認されています。杉並病ではこの予防原則に則した判断が行われています。

 

 計画の段階から予測評価する。これが、みんなが納得するアセスメントです。今回の二つの廃プラ工場はアセスメントが問題です。

杉並病の例を無視した生活環境影響評価が寝屋川で行われたことは見直すべきです。

 

 寝屋川市の説明には、わからない事が多い。例えばこの場所を選んだ理由も、この方式を採用した理由も説明されていない。また4市による共同処理にはメリットがあるというが、他市から持ち込む場合は運搬費がかかるなどのデメリットは書かれていない。

もう一つの問題は、住民・事業者・行政・専門家による合意形成のプロセスが無かったことです。イコール社の事業についての都市計画

 

 前に、行政に義務づけられている住民説明会が市長の特例判断で実施されなかったこと、4市施設組合の規則が4市市議会で採択されたが、住民への説明会を実施する以前に強行されたことも問題です。


 以上の植田先生の講演を聴講した住民からは、「これは周辺自治会の問題にとどまるものではない。共同の他市も、本当に施設が必要なのか議論すべき。」などの声が上がった。

【補足】

 2022年8月1日現在、「大阪府生活環境の保全等に関する条例」における有害物質とは、「物の燃焼や合成、分解等の処理(機械的処理を除く)によって発生し、人の健康や生活環境に被害を引き起こす恐れがある化学物質(14種類)をいいます。」とされている。これでは、杉並病や寝屋川病にあたり、行政が調査し明らかにした数百種類以上の有害化学物資は、現在も不問にされることになる。