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「杉並と寝屋川は違う」は市民をだますウソ

 今回は10月31日付ブログに続き、2004年5月9日のシンポジウムでの3名の講師の先生方による講演の要約を紹介する。


■樋口泰一先生(大阪市立大学元教授、専門はプラスチックの製造及び構造分析)

 

 私は長年、プラスチックを研究してきました。プラスチックは便利ですが後始末が大変な物質です。杉並病が発生した頃は、プラスチックを圧縮すると有毒な化学物質が発生することを、一部の学者を除いて知られていませんでした。東京都も想定していませんでした。

 

 プラスチックゴミなどを圧縮する杉並中継所では、操業半年で体の不調・植物が枯れる・ペットが死ぬなどの被害が出ました。杉並中継所付近と、そこから6~9㎞離れた地点で比較調査した報告によると、体の不調を訴える人は中継所から400m以内が 最も多く、400~800mでもかなり多いことがわかりました。東京都は後にフィルターをつけましたが、その後も多種類の化学物質・ガスが出ていました。

 

 杉並中継所で検出されたホルムアルデヒドは、シックハウス症候群の原因とされている毒物です。ゴミから臭いがする場合、何らかの物質がガスとなっていて、それを臭いとして感知したことになります。生ゴミが多いゴミと、プラスチックが多いゴミとでは、臭いが異なります。つまりプラスチックゴミからは、生ゴミとは異なる気体が発生していることになります。杉並中継所から検出されたガスの中には、米国では極く微量でも検出されてはならないとされる有毒物質が含まれていました。

 

 プラスチックに圧縮など機械的な力を加えたり、熱でプラスチックの一部がこわれると、ガス状の化学物質が発生します。その発生気体による健康被害は、体調が悪くなるなどシックハウス症候群と似ており、自動車からの排ガスや一般の都市大気による健康被害とは異なっています。

 

 

 杉並中継所と寝屋川に建てる施設は違うというのは、廃プラ処理施設の建設を推進するために市民をごまかすウソです。他のゴミと一緒に処理したから出たというのは、全く違います。圧縮や加熱などでプラスチックの一部が壊れたり、プラスチックの添加物から有害な化学物質が発生しうると言う点では、本質的に同じです。


■楠田貢典先生(大阪市立大学元教授、専門はPCBなどの有機塩素化合物)

 

 人が毒性物質に曝露されるというテーマで話します。

 

 毒は多様です。例えば 、

 

 1) 一般の毒、多量に摂取すると死に至る急性毒など

 2) 発ガン性

 3) 胎内で有害な毒に曝露する発生毒性(サリドマイド、ダイオキシンなど)

 4) 化学物質過敏症を誘発するもの

 

などです。

 

 また毒は、作用する物質の量が大きいと影響するわけではなく、非常に微量でも影響がある化学物質があり、問題になっています(例えば環境ホルモンなど)。

 

 毒についてはさらに、曝露の経路・速度・年齢なども考慮されねばなりません。卵子・胎児の頃や、母親から栄養を受ける時期に影響を受けるときに特に奇形を生じさせる毒もあるのです。 

 

 毒を含む食べ物を摂ったときは肝臓が解毒するなど、人間にはある程度の防御機能が備わっています。しかしそれは天然にある毒の関門が有効な場合で、合成化学物質など新しい物質には機能せず、解毒しにくいという問題があります。

 

 先に毒性と量について述べました。毒物量で比較すると「中毒」は千分の1程度の濃度で、アレルギーはPPB(1/10億)からPPM(1/100万)程度の濃度で発症します。そして化学物質過敏症は PPBからPPT(10立方メートルの中に1㎜の立方体があるのがPPT)程度の濃度で発症します。

 

 化学物質による健康被害は、ある日突然、高濃度に発生した場合には被害を防ぐ対策ができません。また一定濃度が出続ける場合でも、長期間曝露することで健康被害を及ぼすことがあります。


■中山徹先生(奈良女子大学助教授、専門は都市計画・公共事業など)

 

 都市計画決定には何が必要か、順を追って説明します。

 

 まず、都市計画決定をする意味を考えます。都市計画は長期的(30~50年)に計画的な視点で街づくりを進めるために、また街づくりを民主的に進めるために決めるものです。都市計画の権限は行政にあるが、権限を持っているだけに民主的な手続きが必要です。今回の問題は、まさにその点にあると言えるでしょう。

 

 次に、どのような長期計画が必要か考えます。これからは人口・産業の減少を視野に入れた計画が必要です。寝屋川市の人口推移の予測では、30年後には現在の2割減の19万人になります。それを踏まえ、自然保護・再生も視野に入れるべきです。20世紀は人口が増えることに対応してきたのですが、21世紀は残された自然を守ることが重要となります。たとえば工場跡地などを自然再生に利用することや、市街化調整区域は原則として開発しないなどが考えられます。

 

 先述のように、都市計画は民主的に進めるために決定されます。従って開発も民主的な街づくりに沿う必要があります。迷惑施設はどこかに必要ですが、それが本当に必要な施設なのか、市民と議論して合意形成することが重要です。今回の問題は、行政の都合で一方的に進めた点にあります。また住民に負担を強いるのですから、負担を公平に分散させるという意味から、迷惑施設を集中させるのは言外です。都市計画上「交通の便がいい」は理由になりません。4市分の負担を1市に集中させるのは、その観点から妥当ではありません。それぞれの市で公平に負担すべきです。

 

 また民主的な決定には、情報の公開と決定への市民参加が必須です。その施設が本当に必要かどうか広範な議論が不可欠なのですが、今回の場合は、そもそも、そのような場を市が設けなかったことが問題です。